かいまく

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かいまく

霧が立ち込めるヨーロッパのある街。深い霧を断ち切るように革靴を大きく音を絶たせて歩く大人たち。それは、子どもを守るための威嚇の音。 だから私は、逃げ遅れちゃったのね。 「こんばんわ。おじさんはね、殺人鬼なんだよ」 ちょっと未来からやってきたおじさんは、そう笑う。 黒い薔薇みたいな夜、一人で歩いていた私をおじさんは両手で掴むと上へ掲げた。 私の手首を持って、自分の目線まで持って行ったの。 穏やかで紳士そうなおじさんなのに、私の目をみるとにんまりと笑った。 口元の金歯が夜の淡い光に輝いていて、ちょっとだけ綺麗だったわ。 「うんうん。君の瞳は綺麗だね。宝石のお嬢さん」 おじさんは私の正体に気づいていたらしい。私を揺さぶるとケタケタわらって、お人形を引きずるように私をずるずる持って帰っていった。 連れていかれたのは、この街で一番大きなお屋敷。 幽霊屋敷かと思っていたけれど、その屋敷の外からかかった南京錠を、何個も何個も壊しながら私は、屋敷の屋根にかかる月を眺めていた。 ああ、落ちてきそうな大きなお月様。私の瞳より美しいわね、と。
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