馬鹿は死なねば治らない

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 それからしばらく、ぼくとブスとのSNS上でのやりとりは続いた。素面のぼくは一転して紳士だ。ブスにもそれなりの対応をした。(笑)なんかもつけて返信した。  ブスは顔に似合わずマイノリティ愛好家だった。齢二十歳の女からこうもアンダーグラウンドな話題が出てくるとは、馬鹿だが趣味はいい。ブスはゲームも漫画もアニメも音楽も、エログロナンセンスも、ホラーも、果てはアダルトビデオや同人誌まで全部好きだった。一言で表すならサブカルブスだったのだ。  ぼくらはほとんど毎日やりとりして、あのゲームの新作がどうだの、あの漫画のあの展開は泣けるだの、それこそ飽きるほど喋った。 「わたし、友達いないから」  が口癖のブスだったが、ぼくらが一般的に『友達』と呼べる関係になるまでにそう時間はかからなかった。ぼく個人の意見としては第一印象最悪のこの女を『友達』とは呼びたくなかったけれど、悲しいかな、ぼくも友達が少ない。そして何を血迷ったのか、ぼくは携帯の電話番号をブスに教えてしまったのだ。素面で、だ。どうかしている。気が狂っていたのだと思う。 「ハロー、ハロー。こちらは藤代蜜。ミスター湯瀬史織?オーケイ?」  初めての通話の第一声がこれとは、やはり馬鹿丸出しである。 「人違いです」 「ちょっと湯瀬くん!嘘つかないでよ!」  やけに耳に残るケタケタ笑いを女はまたやってみせた。うるさくてかなわん。キーが高いんだよお前は。 「なにか用?」 「用って、番号教えてもらったら電話するでしょう、普通」 「お前の普通とぼくの普通は違う」 「永久凍土人間」 「うるさいな。切るよ」 「待ってってば、もう!」  ブスは明らかに慌てた様子でボリュームをあげた。30秒も喋ってないはずなのに非常に疲れる。騒がしい人間は嫌いだ。ぼくは、なんだよ、とわざとぶっきらぼうに返した。 「番号、教えてくれて嬉しかった。ありがと」  それだけ言うとプツリと通話は切れた。照れるくらいなら言わなくてもいいのに、こちらも何となくバツが悪いじゃないか。頭をかち割られそうになった相手の連絡先を入手して喜ぶなんて変態だ。やはりこの女は馬鹿だ。番号を教えるんじゃなかったとぼくは後悔していた。
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