多田

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 夜中に仔猫の亡骸を抱いて神社に向かい、仔猫を隠していた場所に穴を掘った。シャベルなんて持っていないから、スプーンで土を柔らかくして素手で掘っていった。指先に血が滲んできたが、仔猫の痛みに比べたら大したことはない。  掘った穴に仔猫を優しく寝かせ、最期に頭を一撫でして土を被せていく。ここで痛めつけられたのならば、ここで眠るのは嫌だろうか。でも、ここで俺と出会い、俺と影山と過ごしたのだから、ここで眠らせてやりたい。  周りよりもほんの少し高く盛った土の上に、仔猫の毛と同じ白い花を一輪置く。その隣に影山に向けて書いた手紙を置き、飛ばされないように石を載せる。 『捨て猫さんへ 仔猫は私が埋めておきました。仔猫を可愛がってくれてありがとう。 仔猫の父より』  業務連絡のような手紙しか書けなかったが、今の俺にはそれが精一杯だった。手をあわせ、明日も来るよ、と仔猫に告げてアパートに帰った。  翌朝、寝坊してしまった俺は神社に寄ることが出来ずに学校に向かった。影山はいつも通り無表情で、気怠そうに窓の外を眺めていた。  終業式が終わり、明日からの夏休みに浮かれて騒がしい教室を足早に出て神社に向かう。仔猫を埋めた土の上に俺が置いた白い花の隣に、もう一輪白い花が捧げられていた。影山に宛てた手紙の上に置いた石の下には、俺が使ったものとは違う紙があった。 『仔猫ちゃんのお父さんへ ありがとう 捨て猫より』  たった一言の影山の手紙は、仔猫の死と共になくなった俺の感情を取り戻させた。  仔猫との温かい日々。親兄弟に見捨てられた悲しみ。想いが通じあっていたと思っていた人に裏切られた虚しさ。様々な感情が、瞳から溢れ出した。  体の奥に溜まっていた淀みを出し切るまで泣いた俺の中に残ったのは、影山への恋心だけだった。
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