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それは、少女がまだ、生まれて間もない赤ん坊だった頃のことである。
その少女は、とあるゴミ捨て場に捨てられた。
季節は冬の只中だった。
少女が捨てられたその場所に、積もり積もった生ゴミが、もしもあのときなかったならば。
大量の生ゴミが腐り、発酵することによって生まれる程良い熱がなかったならば。
少女はあの晩、寒空の下で凍え死んでいたことだろう。
少女の捨てられた「ゴミ捨て場」は、正規のゴミ集積所ではなかった。
昔から、その町に住んでいる人たちや、その場所の近くを通りかかった人々が、なぜだかそこにゴミを捨ててゆくのである。
捨てられるゴミは、これもなぜなのか、傷んだ野菜やら、食べ残しの弁当やら、飲み残しのジュースやらと、異様に生ゴミの類が多かった。
ペットと思われる動物の死体も、よく捨てられていた。
ゴミ捨て場、というよりは、むしろ「ゴミの捨てられ場」と言ったほうがいいだろうか。
とにもかくにも誰も彼もが、悪臭の立ち込めるその道へ、ふらふらと引き寄せられるようにゴミを捨てにくる、そんな奇妙な場所なのだった。
正規の集積所ではないから、そこに溜まったゴミはいつも、なかなか回収されなかった。
そもそも、大半のゴミがゴミ袋になど入っていない、一つ一つむき出しのバラバラの状態だったため、それを掃除するのはひどく骨の折れることだったのだ。
そのせいで、その場所は、ゴミが溜まっても長い間ほうっておかれるのが常だった。
たまにすべてのゴミが片付けられても、すぐにまた、そこにはなんらかの生ゴミが捨てられて、生ゴミの量はあっという間に増えていき、そうしてすっかりゴミ捨て場然となったそこに、さらに壊れた傘やら家電やら、雑誌の束やら、古くなった布団やら、生ゴミ以外のゴミも捨てられていく、といった具合であった。
そんなことが、遠い昔からその場所でだけ、何度も何度も繰り返されていたのだ。
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