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お昼過ぎ。
3年と2年のほぼ野球部同士の決勝でグラウンドが大いに盛り上がっている中、祐吾は保健室で手当てを受けていた。
意中の女性は1人だが、何かプレーする度に巻き起こる黄色い歓声に気分が舞い上がり、イイ所を見せようとしたせいで、ファーストの守備をしている最中、膝を擦りむいてしまったからだ。
「ハハハハ、ちょっと張り切り過ぎたね」
「まぁ、ちょっと久々だったもんで」
「いやー、でもホント凄かったよ土本くん」
ここまで連れて来てくれたのは愛野先生。今は、祐吾を治療する保険教諭の中山と談笑している。
男子高生というのは本当に単純で、ちょっとしたキッカケでどこまでも妄想を広げられる生き物だ。祐吾も例外ではない。
もしかしたら今日で愛野先生が自分に違った意識を持ってくれたのかもしれない、
だからここまで連れて来てくれたのかもしれない、
だとしたらこの後、何か新たな展開があるかもしれない、と本気で信じていた。
「お二人は、友達なんですか?」
会話の雰囲気が他の教師とは違う打ち解け方だったので、何気なくそう質問した。
「うん、静香とは大学時代からの同級生。
卒業してからー、もう5年か、長いね」
「ちょっと生徒の前でしょ、静香って呼ばないで」
「あ、ハハハ、ごめんなさい愛野先生。
ていうか、外でいるの疲れたからここに来たんでしょ?」
興味本位で聞いた質問が思わぬ方向へ転がり、祐吾の幸せな妄想を、
「ハハッ、バレてた?」
打ち砕いた。
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