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「え、何してるの、土本くん」
数十分後、廊下で座り込んでいる祐吾に声をかけてきたのは愛野先生だった。
ーーマジかよ。と顔を伏せる祐吾。
意識はしていなくとも、可愛いと思っていた愛野先生にみっともない姿を見られてしまい「別に」と誤魔化したが、真正面に屈み込まれ顔を見られると、隠し事をする気にはなれず事情を話した。
教科書と次の授業で使うのだろうプリントを胸に抱え、心配そうに眉を寄せながら自分の話を聞く愛野先生が、状況とは関係なく、やっぱり可愛いと思ってしまった。
「えー、何それ、ありえないし」
そんな場違いな思いを知る由もない愛野先生は話を聞き終わるなり、表情を曇らせ、
「ちょっと井上先生!!」
なんと教室に怒鳴り込んでしまったのだ。
慌てて中を覗き込む祐吾。教室内は騒然とし、突然のことに理解が追い付かない井上はご立腹の愛野先生にタジタジで上手く言い返せないでいる。
「だからって廊下に出す必要あるんですか!?
こんな寒いのに風邪でも引いたらどうするんですか!」
可愛いだけじゃない。授業中にしか話したことのない俺みたいな生徒の為に、同じ職場のベテランに向かっていくこの優しさ。
恋に落ちるのは必然だった。
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