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あれから数か月、野球を失った祐吾は2年になり、消えかけていた人生への希望を取り戻した。
担任が愛野先生だったからである。
クラスメイトには幻滅したが、そんなことがどうでも良くなるくらい嬉しかった。
教室での初顔合わせは予想通り、女子達の質問攻めが続き、祐吾が話す隙はなかった。
「はーい、じゃあ球技大会のメンバー決めて行きまーす」
募る思いを隠し、連日、愛野先生の夢を見るようになった頃、その事件は起きた。
「動けそうなメンバーで9人選んじゃえばいいんじゃない?」
男子はソフトボール、女子はバレー。
そのメンバーを決めようと学級委員の男女が前に出てこの場を仕切っている。
愛野先生は柔らかな表情でその様子を見つめていて、腰をもたれかけている窓からは春の温かな陽射しが、綺麗な先生の肌をさらに白く際立たせている。
時折、誰かの冗談に生徒達と一緒になって笑いながら、とても楽しそうだ。
普段は笑わない祐吾も、あの笑顔を見ていると、つい頬が綻んでしまう。
教室内では愛野先生と一番遠い対角線上の位置に座り、緩む頬を揉みながら情けない顔を隠していると、
「土本くん」
突然、愛野先生の声が飛んできた。
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