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さっきまでざわついていたのに、今は静まり返っている。
まさか、この情けない顔を誰かに見られてしまったのか。
最悪。油断したのが間違いだった。
心の中で見下しているオタク達の怪訝な視線が突き刺さる。
そこそこ可愛い女子グループもこちらを向いて何かを待っている様子。
ん? と教室中を見渡すと、愛野先生がクスッと笑って黒板を指差した。
中央に太線、男子が左、女子は右に名前が順番に書かれている。
「あと1人なんだよメンバー。
土本くん、元野球部だし、出てくれないかな?」
「......」
美声と、教師という壁を感じさせない自然な言葉運び。
しかもあんな風に可愛く首まで傾げられたら、断れる訳がない。
「ぁ。はぃ.....、あぁ」
ずっと黙っていたからか、それとも高ぶる気持ちのせいか、上手く声が出せず、とりあえず手を挙げて大きく頷いた。
「出てくれるの? やったぁ、みんな拍手ーっ」
まばらな拍手とツッコミ混じりの笑い声。
楽し気な空気の中、窓際に立つ先生は祐吾の方を向いて口パクで “ありがとう” と言ってきた。
祐吾は頬が熱くなるのを感じながら、伏し目がちにコクコクと頷き返した。
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