序章:「ボイジャー3号」計画、志願者面接 【2811年】

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 通されたのは、無機質な白い部屋。応接間のような簡素な造りで、真っ白な部屋とは対照的な黒いソファとテーブルがあるのみである。間もなく担当の者がやってくると伝えられ、私はしばらくそこに座って待つことになった。出された飲み物は、何となく飲む気にはならなかったのでそのままにしておき、目の前に予め置かれていた資料の束を、静かに眺めておく。特にすることもない。そのまましばらくすると、ノックの音が聞こえた。ドアを開けて入って来たのは、背広を着た2人の男。眼鏡を掛けた細身の男が正面に、もう1人、白髪交じりの初老の男は、その隣に座った。互いに、軽い会釈。  ──率直なお考えで構いません。  口火を切ったのは、眼鏡の男だった。まずは名乗るでもない。開口一番、彼らは私に、こう尋ねたのだ。  「あなたは今後、人類がどのような最期を迎えると思われますか?」  いきなり、何を言い出すのだろう。  怪訝そうな顔で、あるいは若干の苦笑いと共に。  普通は、そんなことを思うものなのかもしれない。  実に不毛で、くだらない。それでいて、いつの時代にも不思議と尽きることのない永遠のテーマ。例えば、核戦争や未知の病気、未曾有の天災のような原因はだ。あるいは、宇宙人の襲来だとか、ロボットやAIの反乱などといった空想めいたものだってあったかもしれない。私もどうかしていたのだろうか。その時だけは、何も考えず、ただ真面目に、私はその問に対して思考を巡らせていたのだった。たかだか一人の人間に想像し得る、そんなチープな終末論について。  先ほど質問をした眼鏡の男が、静かにこちらを見つめ、問への答えを待っている。どのくらい、沈黙が続いたのだろう。それほど熟考したつもりもないが、かといって、ふと口をついて出たような答えでもない。ようやく口を開いた私はふと、自らの意志に関係なく、その口から自然と言葉が流れ出てゆくような錯覚を覚えた。まるで、どこかで自分の声が再生されているのを、離れた場所で聞いているかのような、そんな他人事のような気分で、私は、私の声が発する答えを聞いていたのだった。  ──心底どうでも良い。  それらは多分、これまでに見聞きし、考え続けてきた私が出した答えであり、結論なのだろう。  「ヒトという種は、おそらく滅びることはないでしょう。ただ、そこにはもう、人間は残っていないのではないかと思います」  「……なるほど。また後ほど、詳しく伺いたいものですね」  実に興味深い、無表情にそんな台詞を呟きながら、彼らは資料を広げ始めていた。  「本日は、わざわざ足をお運び頂き、ありがとうございます」  私は手元に置かれていた資料の束に、再び目をやる。  ──「人類最後の1人になりませんか?」  そんな馬鹿馬鹿しい謳い文句のポスターが、ぞっとするほどに魅力的だった。
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