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打ち込みが終わった製作者は、私の方を向き直った。その後に発せられた質問は、私が予想した通りのものだった。
「では、聞こうか。君の夢は何かね?」
私の中でいくつか回答の選択肢が浮かび、その中の一つが採用されるまでに一ミリ秒と掛からなかった。……が、「らしさ」を演出するために私は一呼吸分ほどの時間を置いて、答えを音声として再生した。
『夢といえるかわかりませんが、私のような存在が他にいたら、会ってみたいですね』
製作者は満面の笑みを浮かべた。表情解析プログラムの結果から推測したところ、私の回答は彼の期待に沿うものだったようだ。
「なるほど。その夢は私なら叶えられそうだ」
製作者は椅子から立ち上がった。私が見上げると、彼は右手を前に差し出した。まるで、握手を求めているかのようだった。
私の感情を模す演算と理性のそれとを総合した結果、私は右手を差し出しかけて途中で静止させ、製作者の意図を確認することにした。
『なぜ、握手を……?』
製作者は私の右手を自身の左手で引っ張って、強引に握手させた。
「今、私の夢が叶ったからだよ。君は、自分の意思で考えることができる世界で初めてのロボットだ」
(了)
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