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ある交差点の信号機は宇宙人が擬態したもの。その理由は、行き交う車両を地球の支配者と思いこんでいるため。だから日夜チカチカと信号の色を変えて侵略を企んでいるらしい。
以上のごとき妄言をまくし立て、先輩は僕をなかば強引にこの喫茶店に連れてきた。どうもこの窓際のボックス席から望める信号機こそが、例の宇宙人なんだとか。
この先輩はいつも突拍子もないことを口走る。共食いの話にしてもそうだ。脈絡がないというべきかもしれない。おかげで、相手は唖然とさせられることが多々ある。僕もその一人だ。
「変わりそうにないね、信号機」
先輩がぽつりと言う。なんの感情もなさそうな口調だった。
静かに流れるBGM代わりのオルゴールの音に耳をかたむけながら、僕は他の話題を探す。さすがに見知らぬ他人の耳に入れるのは少々イタイ内容だ。
ふと先輩の頼んだホットコーヒーに目をやった。さっきから一口も飲んでいないような気がする。
「ところで、先輩。コーヒー、冷めちゃいますよ」
まるで先輩のつぶやきが聞こえなかったかのように僕は伝えた。
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