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「そうね」
先輩はコーヒーカップをそっと持ちあげ、でも、とつづける。
「このコーヒーは夜明けに飲みたいものね」
まさか先輩は朝まで粘るつもりなのか!? いくらここが二十四時間営業とはいえ、コーヒー一杯で半日近く鎮座するのは無茶にもほどがある。
「それは無理ですって。スタッフに追いだされちゃいますよ」
僕はあわてふためき、思わず反論してしまった。
「冗談に決まってるじゃない」
コーヒーカップを戻し、先輩は満足そうな笑みをこぼした。それから僕のメロンサイダーが入っていたグラスを引き寄せ、中に残っていたさくらんぼをつまみあげる。それを口の中で転がしながら、先輩は無言で僕を見つめてきた。
「僕の顔になにかついてます?」
「ん。いや、夜明けのコーヒーを飲むのはまだまだ先かなー、と考えてだけ」
先輩はさくらんぼの種をそっと吐きだし、コーヒーを一気に飲むと、僕に伝票を渡してきた。
「先輩。まさか僕を利用して、食費を浮かそうとしてません?」
「ふふ。想像に任せるわ」
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