第6話

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 大大大犯罪者じゃないか。一体、どの口がほざいているのか。  とにもかくにも、また新しい勉強場所を探さなければならない。  父がこんな事になったとは言え、勉強はしなくてはいけない。いや、むしろこんな事になったからこそ、なんとかして世間の目を取り戻すため、娘の私が頑張らねばならない筈だ。  それに、よかったじゃないか。もう彼の無駄な話を聞かなくていい。あんな珈琲臭い香りに包まれなくてよくなる。うるさい機械の音に顔をしかめなくて済む。  そう思う、思っていた……――、はずだった。  一体、いつからだろう。  うるさかっただけの筈の焙煎が耳に馴染む音になっていたのは。  毎日香るその香りに、ほのかな差があると知ったのは。  この店で、あの席で、アナタと話すのを楽しみに思うようになっていたのは。  ふぅ、と息を吐く。  珈琲の湯気よりも濃い白が、空中で霧散する。  警察の人達には申し訳ないが、きっと彼らの探し物は見つからない。なぜなら彼は頭が良いから。だからこそ、警察が来る前に逃げられたのだ。彼ならきっと、麻薬を誰にも見つからない所に隠すなんて事、簡単にできるだろう。  たとえば、そう。こういう所に――、鞄の中に入れていた包み紙を取り出す。 『coffee』と見慣れた赤い字で書かれたクラフト紙製の袋を、私は胸に抱く。3日経ったら開けていいと言われたそれを、もうあの時に嗅いだ香りも温もりも失ったそれを抱きしめる。  勉強をしよう。そう改めて思った。  大学に入るためにではなく、学ぶために。世の中のいろいろな事を知るために。  そして、追いかけよう。あの夢も目標も持てなかった少年を、全てを壊す事しかできなかった大人を探すのだ。  私自身がなっていたかもしれない道を歩む彼に、その道を壊して貰えたように――。  そして今度こそ、私の方からこう言うのだ。 『a coffee break?』 一緒に、休憩しましょう? と。   視界が少しだけ滲む。 それを手で拭いながら、私はその場を離れたのだった。 【終】
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