第4話

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 ふと、考える。――この関係は、はたしていつまで続くのだろう。  季節を2つ越え、私の手元の珈琲はアイスからホットになった。カップを握る手の先の腕を覆う袖は、短いものから長いものへ。小さな変化が、まるで間違い探しのように私と彼の間を彩る。  それでも、私達の関係だけは変わらない。私は彼の生徒で、彼は私の教師。そしてここでは、相席をするだけのお客。同じ席で珈琲をすすり、同じ時間を過ごすだけの間柄。  しかし、いつか終わりは来る。  私達が、教師と生徒である限り。  もし、私の方に『break』する生徒(もの)がなくなったら、そうしたら、その時、この関係はどうなるのだろう――、そう考えて、ハッと我に帰った。  何を馬鹿げた事を考えているのだろうか。  こんな抽象的なものの考え方、私らしくもない。こういうのは、どこぞのキザで格好つけな教師がすることだ。 「先生の方はどうなんです。どこかに出かけたりはしないのですか」  話題を変えようと思い、早見先生に話を振った。 「たとえば、以前話してくれたような外国とか」 「どうだろうね。休みとは言っても、僕らの休みじゃないからなぁ」  なるほど。言われてみればそうだ。  彼等教師が、私達学生並みに仕事を休んでいたら、生活に窮してしまう羽目になるだろう。大人って大変だな、と思わず、月並みな感想が私の中に浮かぶ。 「ま、仕方ないさ。なんせ、『仕事中』だからね」  早見先生がフッと目を伏せて言う。どこか諦めたように。  確かに、仕事なら仕方がない。  仕事をしないと生きてはいけない。それは当たり前の事だ。  夢も目標もなくても、私が大学に行かなければいけないように。  人はそうしないと生きていけない。  だけど――、 「……今は、『早見一郎』じゃなかったのですか」 「ブレイク中でしょう?」そう続けながら、カップを掲げる。  早見先生が、きょとんと目を瞬かせた。  それから、小さく噴き出す。 「こりゃ一本取られたな」  くつくつと、彼の顔に笑みが戻ってくる。  それでいい。この男は、そうやって笑っている方がお似合いだ。  胸中で頷きながら、私は手にしていたカップに口をつけ、珈琲を飲む。すると、そんな私をニコニコと眺めながら、早見先生が再び口を開いた。 「……昔、君に酷く似た子どもがいた」
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