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レジカウンターで注文品のフラワーアレンジメントを作っていると、小学校低学年くらいの大きな瞳の可愛らしい男の子がお店の中に入って来た。
「すみません、お花をください!」
元気に声を掛けるから、私は思わず笑ってしまった。
「元気だね。どのお花がいい?」
「あのね、このお花! 2本プレゼント用に包んで下さい!」
「これを、2本? ……プレゼントなの?」
男の子は大きく頷いた。
私はチラリと横目であの事故現場の電信柱を見た。それから、言われた通り2本のあのオレンジ色のガーベラを淡い緑色の包み紙を使って薄いピンクのリボンで飾った。
「ありがとう。好きな子にあげるんだ!」
男の子がまた元気にそう言うと、お金を払ってそのまま真っ直ぐ横断歩道を渡ってあの事故現場へ花を置いた。
私は思わず追いかけて、「優未ちゃんにあげたのね?」と聞いた。
男の子は「うん!」と元気に頷いたけれど、その瞳は濡れていて、腕でごしごしと涙を拭くと、そのまま走り去って行った。
私は少しの間、男の子が置いて行った花を見つめていた。
優未が一瞬だけ見せた、寂しい瞳が心に残って忘れられなかった。
好きな子に好きだと伝えられていないこと、そして、好きな子が自分を好きなのか分からないこと……。
「良かったね、優未ちゃん。あの子もあなたを好きだって」
思わずそう呟くと、私は両手を合わせて天国にいるであろう優未の笑顔を想った。
【了】
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