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「いらっしゃいませ」と声を掛けると、父親は軽く会釈をして銀縁のメガネに手をやりながら「妻の……墓参り用の花を」とぼそぼそと呟くように言った。
「優未ちゃんのお父様ですよね?」
私が笑顔で聞くと、面食らったように一瞬絶句して「あ、ああ」と言った。
「これ、一緒に用意したんです。このお花がいいって」
私は大きなビニール袋に入れていたアリッサムの寄せ植えを父親の前に差し出すと、袋の口を開けて中を見せた。
「えっ? 今、ここに優未が……?」
「はい。寄り道したらダメだと言われていたのに寄ったから、と言って帰って行きましたけど。ランドセル背負ったままここにいたので」
私がクスクスと笑ってそう言うと、父親は小さく息を吐いて穏やかな笑顔を見せた。
「そうか。しょうがない奴だな……」
その瞳は愛しさに溢れていて、優未が母親を亡くしても愛されて育っていることを感じて、なんだかとても嬉しくなった。
「この店は、妻のお気に入りのお花屋さんだったんだ」
父親は店先のに立って、どこか遠くを眺めているようだった。
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