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「あの日?」
「ああ。でも、優未は一度家に帰るという約束を守らず、学校帰りにこの花屋に寄ろうとして…………事故に遭った」
父親の目線は、バイク事故現場の横断歩道の向こうの電信柱にあった。地面にはいくつも花が置かれている……。
そう言えば、バイク事故ではバイクを運転していた20代の青年と、下校途中の小学生が亡くなったと母に聞いた……。
ふいに、事故現場に置かれた花の中に、ピンクのリボンがついたオレンジ色のガーベラがあるのが見えたような気がした。
私が思わず走り寄ろうとすると、優未の父親に肩を掴まれ、次の瞬間、目の前を大型トラックが掠めた。
「何しているんだ、危ないだろう!」
怒ったような口調で優未の父親が語気を強めると、私は震える手で花の方を指差した。
「さ、さっき……優未ちゃんにあげた花が、あそこに……」
信号が青になったのを確認して、私は優未の父親と一緒に道路を渡ってガーベラの花を手に取った。確かに、さっき私が結んだ細いサテンのリボンが巻かれている。
「優未がその花を選んだんですか?」
「……はい」
「じゃあ、その花の花束を作って下さい」
目を細めて微笑んだ父親の顔を見て、それから下に置かれている花束の上に置かれた手紙に目をやった。
拙い子どもの文字で『ゆみちゃんへ』とか『はとりゆみさま』と書かれた封筒やカードがいくつか目に入った。
その中に、さっきのオレンジのガーベラと同じ花が2本包まれているのに気が付いた。添えられた手紙には『ゆみちゃんへ りょうたより』と書いてあった。
ああ、この子がきっと、優未の好きな男の子なんだろう……。
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