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「アリッサムはすぐに増える花なので、増えて来たら鉢を大きくするか分けるかしてください」
花を手渡しながら私は寂しげな瞳の父親を見た。
「花も落ちやすいので、マメに手入れが必要な花です」
「墓は家から近いから、マメに手入れに行くよ」
優未はそれを狙っていたのだろうか……。
そうかもしれないし、単に母親の好きな小手毬に似た花を選んだだけかもしれない。
だけど結局は父親がマメに足を運んで、この花の手入れをするのだろう。
「あの、優未ちゃんはお母さんの好きな小手毬の花に似ているから、この花を選んだんです」
この父親に優未の何かを伝えたくて、さっきの幻想のような優未の様子が口から零れた。
「本当は家の庭の小手毬を持って来たかったって」
「……ああ、引っ越したんです。妻が愛したあの庭を、私が見るのが辛くて……」
そこまで言うと、父親は目を赤くして私から顔を背けた。
「優未は……あの庭が好きだったから、引っ越したくなかったのかも知れませんね……。あの庭の世話もしたかったのかも」
それから軽く私に会釈をして、オレンジのガーベラの花束とアリッサムの鉢植えを抱えて去って行く優未の父親の後ろ姿を見つめながら、次にあの父親がこのお店に来る時は、母が明るく奥さんの思い出話でもしてあげられたらいい、そう思った。
あの父親には、まだまだそういう時間が必要だろう……。
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