目眩めく思い・可憐だ

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それに別に答えはどちらとも限らない。ぐるぐると回り始めたらどちらが先かなんてわからないだろう?ただ、どちらかを固定してみることで、基準を作り出す。僕らはそこにしがみついているんじゃないかな?そうしないと回転できない。回転しないと安定ができない。時間に縛り付けられることで、規則性を生み出す。速度にしがみつくことで、その場限りの自由を生み出す。学問を始めとしてすべての物事には、前提とする何かがあって、みんなそれに必死で掴まってる、ということさ。とても窮屈だよね。満員電車みたいだ。手を放したらどうなるのかが怖いんだ。結局、僕らのしがみついているものなんて、非常に曖昧で、とても真理といえるようなものではない。今までにどれほどの科学や真理、正義が覆された?そう、なにも科学だけに限ったことじゃないんだ。新しい事態に対処しきれなくなると、人間は決まってルールの方を変えてきたのさ。遊びみたいなもんだよ。遊んでいるヤツ、ルールを作るヤツが楽しい方へ、都合の良い方へとルールをどんどん変えていく。正しいっていうのは、力があること。強いこと。たったそれだけのこと。トップが変われば、正しいことも変わる。ルールっていうのは、それほどに揺らぎやすいものなんだよ。だから、こんなにも、美しい。それに対して、現実には本来ルールがない。空虚で、とても醜い」  彼はそこまで一気に話すと、また顔をニヤつかせる。その黒い瞳からは感情が読み取れないし、その口から出てくる言葉も、よくわからない。それは、君の持論でしょう?僕は返事を思い浮かべる。科学はそれなりに真理に近いと思うけど…。 「そうかもね。でも、そうじゃないかもしれない。いつだって僕らは自分の目や、耳、自分の感覚でしか物事を観察できないし、そういった感覚と観察を前提としてしか、思考は出来ない。それが正しいと、それが正確なものだと、どうして断定できる?まあ、君も一線を越えれば少しはわかるよ。たとえば、このドアを開けて、部屋から出てみるとかね」  彼はまたニヤける。一線?このドア?この部屋?
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