目眩めく思い・可憐だ

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「うん」  真理に近づけるってこと? 「いや、そういうわけでもないんだ。そもそも真理って言うもの自体、曖昧だからね。真理なんてただのソフトみたいなもんさ。ダウンロードして、コピーして、貼り付けて、そうやって人それぞれにカスタマイズして、これが真理だ、って決めれば、それがソイツの真理だ。結局、すべての思考が宗教と同じような機能をしているのさ」  すがりついてる、ってワケだ。 「そうかもしれない。つまり、それが僕らの真理だ」  なんとなくわかったよ。あとはこの部屋を出ればいいんだね? 「そう、あとはこのドアを開けるだけ」  あとはこのドアを開けるだけ。 「問題集は解いておいてやるよ。まあどうせ君も解くことになるし、君が部屋を出れば僕らは完全に意識を共有することになるから、あまり意味はないけどね」  完全に? 「ああ。本当はいつだってそうやって生きてきたんだ。ただ気付いてなかっただけ。僕らはそれに気付くところまで来たんだ。やっと僕と君に順番がまわってきた。だから遡ることにしたんだ」  沈黙。風が消えた。彼はまた窓の方へ行き、閉め、カーテンを開ける。  他に何か忠告は? 「忠告というか、ヒントだな。時間を意識しろ。ただし、それに囚われるな。あとはただ、遡っていけばいい」  これは使命? 「いや、自然な流れだ。だから別に気にすることは何もない。ただ身を任せていけ。これは、粒子よりももっと原始のレベルで決まっていたものだと、僕らは捉えている」  僕は椅子から立つ。ドアへ行く。何てことだ。結局この不審者に屈してしまったらしい。まあいいか、これもおそらく自然の流れ、生まれたときから、あるいはそれよりもずっと前から染み付いているただの一つのソフトなのだろう。  ドアを開ける。風が僕の横を通り抜ける。目に飛び込んできたのは水平線の上にある太陽だった。窓の上の時計の時刻は五時三十分。僕はそれを見て瞬時にすべてを理解する。笑いがこみ上げてきた。顔がニヤつき出す。
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