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気が付いたら、一人だった。
父さん、母さん、友達。
例えばそんな…いいや、自分の記憶さえもなくして、ただそこに立っていた。
誰か居ないものかと歩いてみたが、それを確かめる前にもと居た場所に戻って来てしまった。
方角を変えてもう一度。それでもすぐに、見覚えのある風景は目の前に現れた。
真っ直ぐ歩いているのに、それは何度でも巡って来る。ここは、小さな星なのかもしれなかった。
こんなところに、どうやって来たのだろう。
見たところ、宇宙船ではないようだ。ではずっとここに居たのかというと、そんな覚えもなかった。
考えているうちにつま先が灰色になってきて、夜がすぐそこまで来ていることに気が付いた。
どこか、寝る場所を探さなくては…
そう思った時、この足で五十歩ほど向こうから、クリームレモン色の帯が伸びてきた。見ると、窓から明かりが漏れている。
あんなところに建物などあっただろうか。
人恋しさに駆け出すと、そこには小さな家があった。キャンプ場にあるバンガローのような簡易な小屋だ。
「すみません、誰か居ませんか。」
返事はない。
そんなことより、戸口で自分が出した声に驚いた。
なんて透き通った高い声だろう。
「あー、あー、あー。」
鈴のような、ビードロのような。
繰り返し声を出しては、喉元を手で擦る。
こんな声が出るなんて、自分はどんな姿をしているのだろう。
ああ、鏡があったらすぐにでも確かめられるのに。
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