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「中嶋 照子さんですね
特別高齢者保護官の大塚です
残念ながら、貴女の預金残高が二十万を切りました
つきましては、中嶋さんの保護に参りました」
俺は、特別高齢者保護隊の手帳をかざし、令状を目の前のお婆さんに見せる。
この言葉を聞いて、中嶋と呼ばれたお婆さんは項垂れ膝を落とした。
「私も、とうとう姥捨て山ですか
もう、戻る事は出来ないんですね
息子の孝一は、私を見捨てたんですか?」
お婆さんは、俺にしがみつくように、問いかける。
俺が、この仕事で一番嫌な瞬間だ。
俺は懐から1枚の紙を、お婆さんに見せる。
それは、委任状。
中嶋 照子さんのこれからの処遇を一任すると云う委任状。
これは、近親者がこのような身内の人間を、扶養出来ないので、国家に処遇を委託すると云う書状。
お婆さんは、それを俺からひったくると、それをビリビリに破き
「孝一は、そんな息子じゃない!
これは、偽物だ! そうさ、あんたが無理やり書かせたに違いない」
俺が高齢者を迎えに行くと、二人に一人は出くわす光景。
俺は優しく微笑み
「お気持ちは、お察しします
しかし、それはコピーですから破いても、駄目なんですよ」
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