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Ⅰ.最初の事件
まだ太陽が顔を見せない時刻。4月になってから日の出の時間帯が早くなったとはいえ、午前4時半ではさすがにまだ外は薄暗い。
ブゥ~ンッ!
遠くから聞こえてくるバイクのエンジン音。新聞配達員が朝刊を配るために家を回っているのだろうか。それとも早朝出勤のビジネスマンか。
彼女は、部屋の中央に置かれたテーブルのほうに歩み寄る。至るところに傷が目立ち、塗装も所々剥げ落ちている。それでも4本の太い足はたくましく、ちょっとやそっとの衝撃ではびくともしないだろう。そのテーブルの上に置かれた1冊の本。黒一色に塗られた装丁は無愛想で、外の景色よりも暗い。彼女は、それにソッと手を伸ばす。
_________どこまで読んだかしら。
その日に読み終えたページの角を折り曲げるなり、付箋を挟んでおくなりしよう。いつもそう思うのだか、いつも忘れてしまう。何度も同じ過ちを繰り返してしまう。あいにく、この本にはヒモがついていない。
_________別に、同じ箇所をもう一度読んでもいいんだけど。
どうせ、「読む側」も、「聞く側」も、黒い本に記された文章が意味する本当の内容などわかっていないのだ。
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