目的地 第1部

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 重厚だが、決して大きな音ではない。一糸乱れぬ軍靴の音は、森崎拓の耳には心地よかった。隊列の足音はもう聞き慣れたものだったが、今、自分と行動を共にしている青年兵たちのそれは初々しく、一瞬、森崎の昔の記憶を呼び覚ます。ただ、それに何秒も浸るほど森崎の神経は緩んでいなかった。  縦に3メートル、横に2メートルほどの大きなドアが眼前に仁王立ちしている。その前で森崎は一旦、他の兵士たちを静止させた。そして、彼らの顔を見回す。 「もう一度、確認しておく。この家の使用人、および増渕の家族には一切危害を加えるな。増渕耀二本人の身柄確保が第一だ」  兵士たちは黙ってうなずく。森崎は装着している小型マイクを口元に近づける。 「私だ。裏口の様子はどうだ」 「今のところ問題ありません。人の出入りはなく、自家用車もすべて駐車されています」 「よし、これから私たちは建物の中に入る。警戒を怠るな」 「了解」 マイクのスイッチを一度切ると、他の兵士には気付かれないように小さく息を吐く。 そして、異国風の凝った装飾のドアノブに手をかける。鍵はかかっておらず、ドアは素直に開かれる。しかし、その大きさからも予想される通り、ドアはかなり重く、簡単には開き切らない。後ろに構える兵士の何人がが手を貸そうとしたが、森崎は服の上からでもはっきりと分るほど右腕の筋肉に力を込め、ドアを押し開けた。  軽く息を吐き、邸宅の奥に視線をやる。     
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