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恐ろしい勢いで減っていくそれに、あの魔法使いの力がなければどうなっていたのだろうと思う。
なのに、本当は会わない方が良いのにあの孤児院を訪れてしまう。
孤児院のルイスに会っている時、その時だけが今、俺が唯一心が休まる時だった。
そこで悲鳴が聞こえた。
「な、何故お前がここに」
「ふむ、情報は本当だったようだ。なるほど。それで私は君を恋人にしたいと思っているのだが、どうかね?」
痴情のもつれか、しかし、ゲルトを気に入る相手がいるとは珍しいなと思いながらそちらの方に俺は向かう。
そちらにしか出口がないからだ。
そこで真っ蒼になったゲルトが俺を見て、はっとした表情になり、
「そ、そうだ。そこにいるエリアスが俺の恋人なんだ、今付き合っているんだ。だからお前とは付き合えない」
焦ったようにゲルトがそんな風に言っている。
だがエリアスも、そのゲルトとそれにいいよっている男――身なりの良い貴族の様で、オルヴァに似たものを感じる――を見て、瞬時に処世術から判断した。
「いえ、今俺はこのゲルトに勝手に恋人にされただけですのでお気づかいなく」
「この、薄情者」
「……俺と貴方は仲が悪いはずです。それに貴族の方に気に入られてよかったのでは?」
「俺はこいつから逃げるために……は!」
そして口を滑らせたゲルトが、鬼畜そうな笑みを浮かべたその貴族らしい男に連れて行かれるのを俺は見送った。
ただ、あのゲルトと恋人同士なんて冗談じゃないと、それならばあの魔法使いのほうがよほど……そう俺は思って、慌ててその考えを打ち消した。
なのにあの美貌の魔法使いを見て俺は、つい抱きしめてしまう。
こちらの方がよほどマシだから?
違う、俺は言い訳をしているだけで、もうすでに心が傾いて……。
違う、違う、違う。
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