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「……どうだ? スーツ姿が板についてきただろ? とは言ってもまだまだ新米だからさ。仕事行きながらここに来るのはなかなか大変なんだぜ? 家からも職場からも遠いしさぁ」
さっき『僕』が思ったことをそのまま言う。『キミ』はそんな愚痴をこぼすと、天を仰いだ。『僕』もつられて上を見上げる。
「……お前は俺を、恨んでるかな」
「……」
恨んでいない、とは申し訳ないが言いきれない。だって『キミ』がいなかったら『僕』は生きていた。『僕』も『キミ』と同じように人生を歩んでいた。
でも、今ならそんなに恨んでないと言えるかもしれない。
「……ごめんな」
「……『キミ』は毎回だもんなぁ」
手を合わせれば、『キミ』の言うことは決まって謝罪からだ。『僕』に後ろめたい気持ちがあるんだろう。
毎回『キミ』はこう思ってる。『俺』が『キミ』の代わりに生まれていたらどうなってただろうと。
『キミ』が生きていれば、どんな名前だったんだろう。『キミ』が生きていたら、人生を描いただろう。
『キミ』より先に『俺』がその立場にいたら、どうしただろう。そんなことを『キミ』は考えるのだ。
有り得ないことだが、考えてしまうのだろう。その順番が逆だったら、どうだったんだろうと。
今それを言っても仕方がないし、なにかが変わるわけじゃないんだが。
「……安心しろ。ちゃんと背負って生きていくからさ」
「……本当に真面目だなぁ、『キミ』は」
そうなるこっちが逆に申し訳なくなってくる。正義感が強いと言うかなんと言うか。
「あ、それと忘れてたんだけどよ。特別なお供えものを今日は持ってきたんだぜ?」
そう言って『キミ』は鞄の中を探り始める。真面目な『キミ』のことだ。変なお香とかお経とかだろうか。そんなに気にしなくて良いのに……。
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