じゅんばん

6/8
前へ
/8ページ
次へ
「あと、今年で妹も二十歳になる。お前と俺の妹だ。俺がしっかり守って見せるからよ」  『僕』の後に余裕ができた頃にできた妹。これも順番で運命が変わったところである。  『僕』が2番でなければ、きっと一緒に生きられた。運命とは時に残酷だ。  でも、『僕』は幸せだ。だって忘れられていない。  名前もない『僕』の存在を覚えてくれている『キミ』がいる。それだけで救われる。 「……じゃあ、また来年もくるよ」  『キミ』は背を向けて歩き出す。と、歩みを止めて小さく呟く。 「またな、……」 「……!」  『キミ』が最後に呟いたのは、誰かの名前。誰かって? それは『僕』には言えない。確証だってないし、言ってしまえば実体だってない。 「ふ、ふふ!」  でも、嬉しくて思わず笑ってしまった。そっか、名前を呼ばれるなんて思わなかった。  公式じゃない。本当じゃない。でも、嘘でもない。 「……か」  もう一度その名前を反芻して空を見上げる。  もし生きていたら、『僕』は自分をなんと呼んでいたんだろう。  『キミ』と同じ『俺』だろうか。それとも今みたいに『僕』だろうか。それとも『私』? そもそも『僕』は弟? 妹?  妹だったら『キミ』が好きなアニメのキャラクターみたいにメイド姿で『お兄ちゃん♪』とか呼ぶことになっていたのだろうか。 ……試しに呼んでみようか。 「……お兄ちゃん♪」 ──無しだ。思った以上に気持ち悪い。  でも、『キミ』だって知らないことがある。まず1つは、『僕』が一人ぼっちじゃないこと。ここには多くの仲間がいる。だから怖くない。  そしてもう1つは、『僕』の魂はもうすぐ転生するということだ。  でも20年弱で転生の順番がくることも意外と早い方らしい。こういう意味では、『僕』は順番に恵まれている。 「……もうすぐ行くよ。『キミ』の世界に」
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加