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「あと、今年で妹も二十歳になる。お前と俺の妹だ。俺がしっかり守って見せるからよ」
『僕』の後に余裕ができた頃にできた妹。これも順番で運命が変わったところである。
『僕』が2番でなければ、きっと一緒に生きられた。運命とは時に残酷だ。
でも、『僕』は幸せだ。だって忘れられていない。
名前もない『僕』の存在を覚えてくれている『キミ』がいる。それだけで救われる。
「……じゃあ、また来年もくるよ」
『キミ』は背を向けて歩き出す。と、歩みを止めて小さく呟く。
「またな、……」
「……!」
『キミ』が最後に呟いたのは、誰かの名前。誰かって? それは『僕』には言えない。確証だってないし、言ってしまえば実体だってない。
「ふ、ふふ!」
でも、嬉しくて思わず笑ってしまった。そっか、名前を呼ばれるなんて思わなかった。
公式じゃない。本当じゃない。でも、嘘でもない。
「……か」
もう一度その名前を反芻して空を見上げる。
もし生きていたら、『僕』は自分をなんと呼んでいたんだろう。
『キミ』と同じ『俺』だろうか。それとも今みたいに『僕』だろうか。それとも『私』? そもそも『僕』は弟? 妹?
妹だったら『キミ』が好きなアニメのキャラクターみたいにメイド姿で『お兄ちゃん♪』とか呼ぶことになっていたのだろうか。
……試しに呼んでみようか。
「……お兄ちゃん♪」
──無しだ。思った以上に気持ち悪い。
でも、『キミ』だって知らないことがある。まず1つは、『僕』が一人ぼっちじゃないこと。ここには多くの仲間がいる。だから怖くない。
そしてもう1つは、『僕』の魂はもうすぐ転生するということだ。
でも20年弱で転生の順番がくることも意外と早い方らしい。こういう意味では、『僕』は順番に恵まれている。
「……もうすぐ行くよ。『キミ』の世界に」
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