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転生するときのルールで、『僕』だった時の記憶は綺麗さっぱり消えてしまうそうだ。つまり『キミ』のことを覚えていられるのも、あと少しということになる。
「……とは言っても、今すぐって訳じゃないんだけどね」
少なくともあと数年後。だから来年の挨拶はまだ『僕』はまだここにいるはずだ。
「……あっ」
と、そこまで考えて思い至ってしまった。あと数年後ということは、下手すれば『キミ』は結婚しているかもしれない。ということはつまりつまり、子供もできているかもしれない。
もしかしてもしかすると、『僕』は『キミ』の子供として転生する可能性もなくはないのだ。
「……ぷっ、アハハハハハ!」
可笑しくて笑ってしまう。そんな可能性は限りなく少ない。でもゼロじゃない。この世は奇跡のようなものの連続だ。
僕が堕りたのもある意味では奇跡的な確率だし、『キミ』が生きられたのも奇跡的な確率だ。
そんなものの繰り返しでこの世は回っている。だったら、素敵な奇跡だってあるだろう。
『僕ら』が生きる遥かな未来に、多くの幸せがあるように『僕』は今から天に祈る。
すでに天にいる『僕』がおかしな話かもしれないが、そういう細かいことはおいておこう。
「……ん?」
と思ったら、『キミ』が血相を変えて戻ってくるじゃないか。どうしたんだろう。
「はぁ……はぁ……わ、悪い。言い忘れたんだけどよ」
『キミ』は息を整えると、『僕』に真っ直ぐ言って見せた。
「……国家試験、受かった! だから今度会うときは俺は弁護士だ。前に約束したからな!」
「……!」
自分の胸のバッチを指差して自慢げに胸を張る『キミ』。
以前に『キミ』がした約束。困った人を一人でも多く助けたい。そんな夢を語っていたっけ。それをそんな形で叶えてしまうなんて、想像もしていなかった。
「……『キミ』は凄いな。『僕』の自慢の兄だよ」
ヘヘヘと自信満々に笑ってブイサイン。まるで『僕』の声が聞こえているかのように。
「あとよ、これ最近はまったアニメのキャラなんだけど可愛いと思わないか? 女子高生じゃないかって? かてぇこと言うなって♪」
「女子高生はアウトじゃないのか!?」
『キミ』は本当に27か!? そういうものなのだろうか……。それから『キミ』は『僕』の声が聞こえているんじゃないだろうな。
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