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「マスター、ご馳走様でした」
お財布から小銭を出していると、背後から男性に声を掛けられた。
「……もしかして……麻木……?」
手が止まる。
ゆっくりと振り向き、男性を見た。
「ええと……どこかでお会いしましたっけ?」
「思い出せない? 中学の時、同じクラスだった伊波だけど」
伊波――。
その名前は忘れようにも忘れられない名前だった。
「嘘……。伊波くん!?」
一気に気持ちがあの頃へ立ち戻る。
「思い出してくれた?」
「勿論。でも、よく私だってわかったね」
そこで店主がにこにこと微笑みながら「お時間あるなら、もう1杯いかがですか?」と聞いてきた。
「すみません。お願いします」
再びソファへ腰を下ろすと、テーブルを挟んで向かい側へ伊波くんも腰を下ろした。
「ごめんな、帰るつもりだったんだろ?」
「ううん、別に用事はないから。それより、私って中学生の頃から変わってないのかな? 伊波くんは言われなかったら全然わかんないよ」
伊波くんは「マスター、ブレンドで」と、言ってから私へ向き直った。
「いや、大人っぽくなったよ。綺麗になった」
ふっと笑う伊波くんに心臓が大きく音を立てた。
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