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「……言うようになったね。今こっちで働いてるの?」
「ああ。大学からはこっちに戻ってきたんだ」
伊波くんは中2の冬休みに両親の転勤で地方へ転校していった。
「そうだったんだ……」
あの頃――。
私は伊波君のことが好きだった。
けれど、気持ちを伝えることもなく、伊波くんは遠くへ行ってしまって、もう会えないと思っていた。
「麻木は? 働いてるの?」
店主が何も言わずにブレンドコーヒーをふたつテーブルへ置いた。
「うん、そこの大通りにあるS商事」
「マジか。一流商社じゃん」
「伊波くんは?」
「俺? 俺は一応、建築デザイナー」
「すごい! 夢叶えたんだね!」
「まだまだひよっこだけどな」
この店の雰囲気も相まって、懐かしさがこみ上げてくる。
同時にあの頃の不器用だった自分が恥ずかしくも思える。
「江藤とはまだ?」
ドキリとした。珈琲にミルクを入れ掻き混ぜるスプーンが小さく鳴る。
「まさか。伊波くんが転校した後、すぐに別れたよ」
「そうなんだ。まぁ中2だったしな」
「そういう伊波くんは、まだ真希と連絡とってるの?」
「いや。俺も転校して半年くらいまでだったな。連絡取ってたの」
そう、伊波くんは私の1番仲のいい友達だった真希の彼氏だった。
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