ふくよか女子の日常

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ふくよか女子の日常

チリンチリン そんな、誰しもが必ず一度は聞いたことがあるようなベルの音が、店の厨房にいた私にお客さんの来店を知らせる。 「はいはーい、今向かいまーす。」 なんて呑気な返事をしながら私は急ぐこともなく表に向かった。 客を待たせているのはわかるが、なんにせよこの小さなテーブル席が二つほどと三席しか椅子のないカウンターだけの、とてもミニマムな店の中では、むやみに走ったりしたらそこらの物を倒してしまいそうだ。 幸いこんな喫茶店に来る客は近所の方たちぐらいなので普通に歩いて行っても笑顔で待っていてくれる。 逆にアットホームな感じがいい、などの評価をもらうぐらいだ。 「いらっしゃいませ。」 店の入り口にはやはり見慣れた人が立っていた。 と言っても、近所にいるようなおじちゃんやおばちゃんではなく、こんな街の片隅にあるちっぽけな店より何百倍も立派なカフェにいそうなとても高級感のあるスーツを着た男性だ。 しかもそのスーツに着られることなくしっかりと着こなせるぐらいルックスもいい。 何度見てもこの喫茶店にいると違和感を感じるような人だが、彼はかなりの頻度で来る常連客である。 厨房から出てきた私を見た彼は、ただでさえ美しすぎるその顔に彫刻のような笑顔をうかべ会釈をし、いつも通りカウンター席に座った。 私もさっき通った道を慎重に歩きながら厨房に戻る。 「やっぱり、このお店は落ち着くね。」 店に入ってから一言も発していなかった彼が微笑みながら述べた。 彼はこの店に来るたびにこうして店を褒めてくれる。 そして最後には、 「このお店は僕のお気に入りの場所だよ。」 なんて言いながら店を出るのだ。 「いつものをお願いできるかな。」 そう言った彼に肯定の返事をしながら私は作業に取り掛かるのだった。 いつかは、こんな店を『お気に入り』と言ってくれる彼に見合うような喫茶店にしたいな、なんてことを考えながら。
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