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その二十分後、俺は国語の授業を受けていた。意味の分からない文法を聞き流していると、カラスか羽ばたきが聞こえてきた。
「さて、どこまで話したっけ?」
浴衣姿の式神が訊く。
「式神は霊的な害から守るための存在だというところまでだ」
「そうだったわね。私は三条琴音。あなたを守護する式神なの」
「俺は西崎翔太。ところで、具体的に式神って何をするの?」
「それは、これから教えていくつもり。というより、私のような式神が見える人ってかなり珍しいけど、何かしたの?」
「何かってなんだよ?」
「普通の人が見えるようにするには、山で十年以上修行するか、臨死体験するかのどちらかなの。山での修行はないだろうから、死にかけたことはある?」
俺は首を横に振る。
「じゃあ、なんでかしら?」
「まあ、それもいつか分かるだろうよ
彼女と話すべきことはたくさんあるだろうが、教室で話すのは、御免被りたい。このままだと、見えない何かと話す痛い高校生に俺はなってしまう。
「お前さ、教室の中に入ってくれない? 窓を開けっ放しにすると、寒いしさ」
三条は窓枠を乗り越えて入って来る。冬なのに浴衣姿の彼女に違和感を覚える。
「それにしても、なんで浴衣?」
「似合ってない?」
彼女は俺を真っ直ぐ見る。その視線を正面から受け止め、なぜか顔が赤くなったような気がした。
「いや、似合っているよ」
着ている本人がかなり美人だから。と心の中で呟く。
「じゃ、どうして?」
「それしか持っていないのかなって思って」
俺は視線をはずしながら、答える。その類の質問が女子にとってタブーであることは理解している。
「ええ、そうだけど」
迷いなく、そう答えた。
「はあ? 汚っ!」
思わず声が大きくなり、周りの視線が一斉に向く。俺は笑って誤魔化すが、怪しまれたに違いない。
「式神は汚れないから、大丈夫。でも、私と一緒にいると面倒じゃない?」
「いや、別に」
本当のところ、性欲まみれの男子高校生に、式神で誰にも見えないとはいっても、美少女がついてくるのは、大問題に違いない。
「よかった。前の主はかなりそれを気にしてたから」
「前の主がいたのか?」
「ええ。いろいろあって、あんまり思い出したくないけど」
彼女がそう言うなら、無理に言わせることもないだろう。
「分かった」
俺が頷くと同時に、チャイムが鳴り、国語の終わりを告げた。
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