鶴原遼太郎の過去

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 鶴原はしゃがみこんで顔を抑える。 「どうすりゃいいんだよ」  自分の声が震えているのが分かる。それでも、取るべき道は一つしかない。 「はい。もしもし。大塚です」  鶴原は大塚に電話をかけた。倉橋を連れ去ったのは恐らく人間ではない。だとしたら、頼れるのは、大塚の式神の三条だけだ。 「先生、倉橋が連れ去られた」  そのときの彼には、それしか言えなかった。恐怖で冷静さもなくなってしまっていたからだ。 「誰に?」 「分かりません。でも、巨大な化け物です。三メートルくらいはありそうな」  そう言った途端、大塚の声色が変わった。 「分かった。そこに行くから、待っていて」 「いえ、自分で探します。見つかったら、連絡するので、来てください」  自分の意思とは正反対の言葉が出た。 「えっ、でも…」 「無理だというのは分かっています。ですから、倒そうとは思ってません。倉橋は助け出すだけです」  鶴原の強い意志が伝わったのだろう。 「分かったわ。くれぐれも気をつけて」  彼女は小さく呟いて、電話を切った。  鶴原はGPSを使って倉橋を探すことにした。しかし、携帯の位置情報がオンになっていなければ、倉橋の発見は困難になる。鶴原は祈るような気持ちでスマホを見る。  倉橋の居場所が分かった。幸運なことに、位置情報はオンだったようだ。鶴原は興奮しながら確認する。  森の奥の小さな寺だった。化け物はそんなところに倉橋を連れ去ってどうするつもりなのか。  そうは言っても、ここに突っ立っている訳にもいかない。鶴原はその寺に急ぐことにした。  数十分かけて着いたその寺はかなり寂れていた。人がいるのかさえ、分からない。ここのどこに倉橋がいるのだろうか。 「おーい。倉橋、迎えに来たぞー」  一応呼びかけてみる。しかし、返事はない。  とりあえず、鶴原は寺の周りを一周することにした。それほど大きい寺でもなかったので、難しくはなかった。  何もいない。倉橋も化け物もいなかった。仕方がないので、本堂に入ることにした。土足で入ってはいけないが、すぐ逃げられるように靴は履いたままである。  一ヶ所、太い柱に紐が縛りつけてあった。その柱にくくりつけられていたのは、倉橋だった。
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