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「倉橋! 大丈夫か!」
「しーっ」
彼女は言う。
「あいつに見つかったら、今度こそ死ぬわ」
「分かった。でも、ちょっと待ってろ。今、助けるから」
鶴原は鋏を使って、紐を切る。
「あいつは何者なんだ」
倉橋を助け出して、訊く。
「分からないわ。でも、自分のことを霊鬼だと言っていたわ」
「霊鬼?」
「ええ。式神のなり損ないみたいなもの。人や動物から霊力を奪って生きているの。それが完全になくなったら、大変なことになるらしいわ」
「どうなるんだよ?」
「分からないわ」
すると、奥から低い声がした。
「誰だ? 捕まえてやる。食ってやる」
声は近づいてくる。
「倉橋、逃げよう」
倉橋も頷いて、走り出す。しかし、霊鬼も追ってくる。
二人は本堂から、外に出た。
「どうなるの?」
「分からない。でも、ここから離れよう。なるべく、人の多いところに行けば、見失うかも」
鶴原は走りながら言う。そのときには、寺から、二人は脱出していた。巨大な霊鬼も追ってくるが、そのスピードはかなり速い。
外は日が暮れかかっており、完全に暗くなってしまったら、森から出ることはできないだろう。突き出た枝や木で擦り傷を負いながら、必死で走る。
視界から倉橋が消えた。どこに行ったかと周囲を見渡す。
「倉橋?」
小さな返事がした。鶴原が駆け寄ったところ、彼女は木の根につまづいて、転んでしまったようだ。
「大丈夫か?」
彼女は頷くが、黒い影は徐々に近づいてくる。もう終わりかと思ったときだった。
二人と霊鬼の間に、大塚と三条が立っていた。
「闇に現れし、霊鬼よ。すべてを消し去らんとする蛮行、行うべからず!」
三条は鋭く叫び、両手を前に突き出す。光の壁のようなものが作られ、霊鬼の攻撃を阻む。
「二人とも、早く逃げなさい。ここは私たちがどうにかするから!」
しかし、鶴原と倉橋の足は動かなかった。
「早くしなさい!」
「駄目です。先生を放っておくことはできません」
そう倉橋が言った瞬間、何かが割れるようなパリンという音がした。三条の守りが破られてしまったのだ。それからのことは、一瞬のことのように感じられた。
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