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霊鬼は真っ直ぐ大塚の方に突っ込んでしまった。
「先生!」
二人は叫んだが、何も変化はない。その代わり、大塚の全身から煙のようなものが抜けていくのが見えた。十秒ほど経つと、その煙は完全に消えた。そのときには、大塚は地面に倒れてしまっていた。気を失っているようだ。
「先生! 先生!」
揺すっても、反応は何もない。
「あの寺で休ませましょう、しばらく」
倉橋が言うので、二人で協力して、どうにか大塚を寺まで連れていく。
「あのさ、一つ相談があるんだけど、いいか?」
「どうしたの?」
「いつか、式神のことも翔太や美帆に言わなくちゃいけないかな?」
「どうして、それを私に訊くの?」
「俺はさ、二人にいろいろ隠しているこの状況が好きじゃないだ。確かに、式神のおかげで、お前や大塚先生と知り合えたのは、嬉しかったよ。でも、翔太や美帆と距離が開いてしまうのは、どうも嫌でさ」
沈んでいく夕陽を眺めながら、鶴原は言う。
「その質問に答える資格は私にはないわ。三人の絆は数ヶ月前にあなたと知り合った私とは、比べ物にならないほど深いんでしょう。二人がどう思うかは、私じゃなくて、あなたが決めるべきだわ」
「そうか。でも、いつか、言うときが来るのかな」
鶴原が一言呟いた。そのとき、大塚が起き上がった。
「先生! 大丈夫ですか?」
二人は同時に訊く。
「…ここは、どこ?」
周囲を見渡しながら訊く。
「寺です。先生が霊鬼に襲われて、気を失ったので、ここに連れてきたんですよ」
倉橋が説明する。
「霊鬼って何?」
「式神のなり損ないみたいなものです」
「式神って何?」
「変なこと、言わないでください。式神はあなたと一緒にいる三条のことですよ」
大塚は小さく笑いながら、答える。
「私、独身だし、三条って誰なの?」
「先生って独身だったんだ。てっきり結婚してるものかと…。じゃなくて、式神ですよ、あなたを守ってくれた!」
大塚は申し訳なさそうに顔を伏せる。
「ごめんなさい。分かりません。早くしないと、親御さんも心配してるだろうから、帰りなさいね」
大塚はそう言い残して、去っていった。鶴原と倉橋はしばらく動けなかった。
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