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自分が何を言ったのか理解ができなかった。まるで、口が他人のものになったような気がする。
倉橋の方は、驚きと恥ずかしさが入り交じっているようで、その姿がまた可愛らしく思えてしまう。鶴原と三条はどういう訳か、面白そうに状況を見守っている。
俺は何を言ったのだ。
それを知るのに、数秒ほどかかった。その間は、自分の脳がほとんど機能していなかったのだろう。
「はい。分かりました。でも…」
断られるだろうか。だとしたら、かなり残念だ。しかし、言った段階で、そうなることは何となく覚悟していた。
しかし、彼女の返事は違った。
「最初の告白は私からさせてもらえる?」
俺は無意識のうちに、頷いていた。
「翔太君、ずっと前から好きでした。付き合ってください」
なぜか敬語の彼女の声が美しく響く。そんな感覚があるのかと思う。
「もちろん。ありがとう」
今度は無意識ではなかった。確かな幸せが俺を包んでいた。
「いつからだよ?」
俺は訊く。
「遼君から優しくて、とても良い人だというのを聞いてて。でも、高校に入学して、初めて翔太君を見たときから、ますます好きになっちゃって。一言で言うなら、一目惚れしたの」
「これが運命というものなのかな。俺も唯のことがずっと好きだったんだよ。一年以上も前から」
俺と倉橋は笑い合う。この幸せによって、つまらないと思っていたはずの学校が輝いているかのように感じた。
「あのさ、俺たちは出ていった方がいいか?
二人でいちゃついているところにいるのは、さすがに、居心地が悪い」
鶴原と三条の二人は出口に向かって歩いていた。二人とも、ニヤニヤ笑っている。
「いや、いちゃついちゃいねーよ」
俺は言い返す。
「そうだよ。まだ、そんなやましい気持ちは、持っていないから」
倉橋も言うが、三条はさらに追い討ちをかける。
「まだっていうことは、将来、そんなことをするつもりなんですね」
倉橋は慌てて、口を塞ぐが手遅れだ。
「三条! 唯が困ってるだろ。やめろ」
「はい。すいません」
三条は謝るが、その顔は笑っている。この人たちにカップルを冷やかすよう言ったら、右に出るものはいないだろう。
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