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 由宇の両親は帰宅していなかった。父親は毎日終電、母親も今日は夜勤のはずだ。由宇は灯りのない家に「ただいま」と声をかけ、一直線に自室に向かった。  立ち尽くす堤からカバンを奪い、ベッドに腰掛けさせる。由宇は二つのカバンを適当に床の上に転がすと、学ランを脱ぎ捨てベルトのバックルを外して制服のズボンを脱ぎ始めた。由宇の手が下着にかかったところで、堤が目を見張る。由宇は構わず下着をズボンごと脱ぎ去り、足で遠くに蹴り飛ばした。学習机の一番下の引き出しの最奥から、オナニー用のローションを取り出す。コマの付いたイスをコロコロと転がしていき、ベッドに腰掛けたまま固まる堤の真正面に座った。 「堤は射精するのを気持ち悪いと思ってるようだけど、男ならみんなしてるよ。堤だけじゃない」  右手で取り上げた由宇のペニスはまだくったりとしていた。由宇はペニスにローションをメープルシロップのように回しかける。しばらくもにゅもにゅともんでいると、次第に芯が通ってきた。少し尻を前に出して後傾姿勢をとると、目を閉じてペニスの感覚に集中する。ペニスを触るのは、堤と共に射精した日以来だった。あの時は次もまた堤と一緒の時にすることになるとは思ってもいなかった。堤の存在を意識しすぎると達せないかもと危ぶんだがそんなことはなく、好き勝手に扱いているとやがてすぐに吐精した。気持ちいいことが大好きな自分の体に呆れたらいいのか感謝したらいいのか。ストイックな堤と足して二で割ったらちょうどいい気がする。刺激が強すぎたかなと、由宇が恐る恐る目を開けると、堤は唇を薄く開いて食い入るように由宇の下半身を見ていた。 「気持ち悪かった?」 「……いや」 「これ、脱いでもいい? 暑くて」  由宇は精液で汚れた手をティッシュで適当に拭い、自分の白シャツをつまんだ。 「女の裸ダメって言ってたけど、俺のもダメだった?」 「そうは思わない」  由宇は遠慮なく脱ぎ捨てた。  堤の股間部分が目に見えて張り上がっている。 「前回から抜いてない?」  由宇が指さすと、堤はあいまいに一つ頷いた。 「堤こそ、冷静になって、後から気持ち悪くならなかった? その、俺に抜かれたこと」 「ならなかった。男同士だからか、手順の一つひとつに無駄がなくて安心できた。それに」 「それに?」 「冷えた体でクーラーの効いた部屋にいて、向井の手が、温かくて気持ちよかった。あれから抜いてないなんてうそだ。ほんとはあの日の夜、向井の手を思い出して……マスターベーションした。でも、あんなにうまくはできなかった」  由宇は思わず声に出して笑った。堤の言葉がうれしくてたまらない。 「だから言ったじゃん、俺うまいんだって」  由宇は堤のベルトに手をかけた。前回と違い、堤は腰を浮かせて、由宇が脱がせるのに協力してくれた。堤のペニスはつやつやと輝き、勃ち上がっていた。由宇はローションを手に取り、両手でくるくると温めてから、堤のペニスを握った。堤は目元を赤く染め、感じ入ったように息を吐く。もう気持ち悪くないかとはきかない。手を上下させるたび、堤が快感を得ていることが見て取れる。堤が喘ぎそうになるのをぐっと口をひき結んで我慢するのを見ていると、由宇の一度萎えたペニスも再び熱を持ち始めた。由宇は堤のペニスを扱く手を一度止めると、堤の顔を伺い見た。 「ちょっと、試したいことあるんだけど、やってみていい?」  堤が拒絶しないのをいいことに、由宇は乗り上げるように向かい合わせで堤の太ももにまたがった。そうして、二本のペニスをまとめてぎゅっと握る。両手で作った輪の中に薄ピンク色の亀頭が仲良く並んでいる。由宇がそのまま根元から先端に向かって扱き上げると、堤が耐え切れないように声を上げた。堤の手が由宇の手にかかる。引きはがそうとしているのか、続きを催促しているのか。由宇はペニスを掴んだ手を下へ動かした。くびれの部分でわざとスピードを落とし、ねっとりと撫で下ろす。堤が「あぁ、は、」と喘いだ。浮いた筋まで手のひらに感じられるほど、どちらもバキバキに勃起している。しばらく手の上下を繰り返し、わざとふっと握った手を緩めると、堤は腰を動かして、ペニスの先端を由宇に寄せてきた。それがつるっとペニスを滑って、由宇の陰嚢に突き当たる。二人で顔を見合わせた。どちらも熱に浮かされた目をしていた。 「……入れてみる?」 「はぁ、はあ、あ、え?」 「堤の、俺の中に、入れてみる?」 「何言って、」 「今、気持ち悪くないんでしょ? 試しにちょっと入れてみようよ。俺相手なら、大丈夫かもよ」  由宇は追加のローションを手に取り、人差し指を尻の穴に差し入れてみた。爪が当たらないように慎重にねじ込む。 「うわ、なんか、独特の感じ……今、どのくらい入ってる?」 「どのくらいって、第一関節くらいだ」 「まだそんなもんなの? ん~、もういいや、入れてみて」 「入るのか?」 「わかんない、やったことないもん」  堤はごくりと唾を飲み込み、由宇の脚の間に場所をとった。由宇の太ももの裏に手を当てて左右に押し開き、ペニスの先端を穴に押し当てる。 「この体勢、死ぬほど恥ずかしいね」 「だろうな」  堤が小さく笑った。 「ほんとにいいのか」 「いい、やってみよ」  堤はゆっくりと先端を押し付けてきた。 「あぁ……」  排泄と違い、由宇の意志に反して穴が開かれてゆく。それは他で得たことのない感覚だった。 「ちょ、ちょっと待った」 「なんだ」  堤も狭くてきついのか、眉根を寄せて苦しそうな表情だ。 「き、切れそう……」 「いったん抜こう」  堤が慎重に腰を引いていく。もうやめると言われるのかと、由宇はしょんぼりした。せっかく堤がやる気になっていたのに。が、堤はくるりと由宇の体を裏返した。目の前に白いシーツがある。振り返ると、四つん這いになった由宇の尻の向こうに堤がいた。 「あ、ちょ、堤、なにして」  淵を通り抜けて、ぬっと腹の中に入ってくるものがあった。先ほどよりも明らかに細い。けれど、それは自由自在に中の粘膜をたどって進む。堤の指だ。 「どうだ?」 「どう、て、あぁっ、」 「痛くないか? 気持ち悪くないか?」  他人に体の内側を触られる初めての感覚に由宇の腰は震えた。気持ち悪い、は言い過ぎだ。違和感が一番しっくりくるだろうか。堤の指は最初こそ遠慮がちだったが、由宇が痛がっているわけではないと分かると、狭い淵をかき回すように伸ばし始めた。やがてぐいーっと割り開かれる感覚に、いつの間にか二本目の指も入れられているんだと思い知る。 「あぁ、あ、あああ、ぁ、あ、」  違和感の中身が次第に変化していた。最初はそこに何か挟まっている異物感だったのが、今はじんじんと疼いている。その疼きは股間全体に広がり、由宇は半勃ちのペニスをシーツにこすり付けていた。 「気持ちよさそうだな」 「ひぃん、いい、きも、ちい、いい、つつ、みの、ゆび、きもち、い」 「指が気持ちいいのか」 「わか、んな、ああ、あぁ、あ」  シーツとの摩擦でペニスが気持ちいいのか、堤の指にかき回されて尻の穴が気持ちいいのか、由宇は分からなくなっていた。やがて由宇は自分の体でペニスを押しつぶして果てた。一気に吹き出すような射精ではない。指で押すたびスポイトの先からぴゅくぴゅくと水が出るように、繰り返し精子を吐き出した。 「堤、うますぎる」 「なわけないだろ」 「ほんとだったら」  堤が笑った。耐えるような顔でも、苦しそうな顔でもない。二人とも汗だくで、由宇なんか二度も射精してドロドロにも関わらず、堤が笑った。由宇は鼻の奥が熱く痛んだ。 「堤、萎え、てないね」 「だな」  堤のペニスは未だ張りを保っていた。 「ほんとにいれるのか?」 「やろう。山があったらのぼろう」 「何の話をしてるんだ」  堤が笑いながら、由宇の腰を左右から両手でつかんだ。堤が入れやすいように、由宇も膝を立てて腰の高さを引き上げる。一呼吸おいて、熱のかたまりが由宇の中に押し入ってきた。でも、先ほどのような淵が切れそうな感覚は今のところない。由宇の穴はゆっくりと開いて、堤のペニスに添うように柔軟に形を変えた。 「んあ、……」 「……痛いか」  由宇は首を振って、背後の堤にNOを伝える。堤はじりじりと少しずつ由宇の中にペニスをおさめていった。 「どこ、まで、入るんだ」 「わかんな、……突き当りまで?」 「適当な……」  由宇自身腹の中にペニスを迎え入れるのは初めてで、奥行がどれくらいあるのか見当もつかない。シーツについた両腕の間から自分の薄い腹に視線をやると、光の加減かうっすらと堤のペニスの形が浮かび上がっているように見えた。 「ああ、つつ、みの、入って、る」 「……ああ」 「いま、どのくら」 「半分、かな」 「すご、つつ、み、どう、中、どんな」 「あたたかい」  堤は由宇の腰に両腕を巻き付けて、ぎゅっと背中に抱きついてきた。そのしみじみと感じ入ったような堤の声に、由宇の内壁はきゅうっと締まり堤のペニスに寄り添った。背後で堤が息をのむ気配がする。一段と狭くなったそこを堤のペニスが再び押し進んできた。 「ス、ストップ……」 「はぁ、限界か、あ」 「そんな、気がする……もう、あっ! あぁ、ああ、あ、ん、んん」  堤が動きを止めたのは一瞬で、すぐに恐ろしい排泄感に襲われた。堤がペニスを引き抜いているのだ。由宇は奥歯を噛み締めた。そうでもしないと、ひどい声を垂れ流しそうだった。これはまずい。もしかしたら入ってくる時よりも気持ちがいいかもしれない。内臓を丸ごとずるずると抜き出されているような感覚。出てはいけない物まで出ていっている気がする。が、それもすぐに打ち消される。再びペニスが隘路を分け入ってくる快感に、由宇は耐え切れず腰を振っていた。入ってくる時も、出ていく時も、たまらなく気持ちいい。 「むかい」 「あぁ、ん、きもちいい、んあ、ああ」 「むかい、もう、出」 「んん、はぁああ、んあ、ああ」 「もう出る、ゆるめ、」  由宇は腹の中に堤のペニスを取り込んだまま、腰を揺らせた。頭の中は真っ白で何も考えられない。堤が何を言っているのか全く入ってこない。ふわりと体が浮き上がるような快感に何度も浸りきる。やがてひときわ大きな風に押し上げられ、由宇はペニスからたらたらと精をこぼしていた。 「大丈夫か?」  由宇は小さく何度も頷く。視界がぼやけている。由宇は涙を流しながら達したらしい。どんなに気持ちよくても今まで泣きながら射精したことなんてなかった。 「つつ、みは……?」 「ペニスが抜けないかと思った」 「ふは、抜け、た?」 「射精したら、抜けた」 「ほんと? まだ、入ってる、気がする」  背後から腕が回ってきて、熱い体にぎゅっと抱きしめられる。背中に素肌の感触。全く気付かなかったが、堤はいつの間にか服を脱いでいた。胸にあたたかい物がこみ上げる。同じだけ、堤もあたたまってくれていたらいいと由宇は思った。力が緩んだ隙をみて、もぞもぞと体を反転させて、堤と向かい合わせになる。 「気持ちよかった……」 「それは良かった」 「堤、うますぎる」 「それはないだろ」 「ほんと。俺、セックスしてこんなに、頭ふっとぶほど気持ちいいの初めて」 「そうか」 「堤も良さそうだった」 「ああ、信じられないことに」  堤からそんなセリフが出るなんて。由宇の胸に今日一番の熱がこみ上げる。 「これは、夢?」 「勝手に夢にしないでくれ」  堤が困ったようにも照れたようにも見える笑顔を浮かべた。由宇はたまらなくなって、堤の頭をぎゅっと胸に抱きしめる。 「俺、俺、堤と、勉強もしたいし」 「急だな」 「またこうして、セックスもしたい」 「もう次の話か」  胸に伝わる振動で、堤が笑ったのが分かった。  堤は由宇の体をどけると、ベッドから起き上がった。再び戻ってきた堤の手にはスマホが握られていた。 「なに、記念に自撮りする?」 「しない、なに考えてんだ。向井の中に、出してしまった。どうすればいいか調べよう」 「え~そんなの後で良くない?」 「だめだ、下すかもしれないだろう?」 「そうなの?」 「それを調べるんだ」  堤が指先で操作すると、ウェブサイトの履歴が出てきた。それは外国語大学のHPだった。由宇は眼が釘付けになる。 「堤、これ」 「外大について調べてたんだ」 「東京──この外大、東京にあるの?!」 「ああ、」 「俺、この大学に行く! ここに行きたい!」 「それはまた、いきなり難しい所から狙うなぁ」 「ここ難しいの?」 「外大の中でも偏差値は高いほうだな」 「やだ、ここに行きたい……」 「いいと思う。最初からランクを落とすのは、俺も好きじゃない。でも、親は反対しないのか?」 「大学に進学したいって言ったら喜ぶと思う……」  子ども二人を大学まで行かせるために、途中パートになったり正社員に戻ったりしながらも働き続けたと、母親は言っていた。父親は「入って勉強するのは由宇なんだ、由宇が納得いく道をゆきなさい」と言っては、母親に怒られていた。  光が差した、と由宇は思った。この大学に行けば、堤と離れないですむ。 「俺、絶対受かって、堤と東京に行く」 「俺が落ちたらどうするんだ」 「え、それは、どうすればいいの……」 「迷うところじゃないだろ」 「迷うよ~」  しばらく二人は、ああでもないこうでもないと、目の前に開けた未来の話をした。
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