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 チョークが黒板に当たる音が一画一画やけに大きく響く。最後の答えまで書き上げると、由宇はチョークを黒板の粉受けに置き、指先についた白い粉をぱんぱんと払った。  生徒が指名されて黒板に解答を書かされている時間なんて絶好の私語のチャンスなのに静かだなと思って振り返ると、数学教師も含めクラス中が由宇に注目していた。その圧に由宇の腰が引ける。みんな判で押したように驚いた顔をしていた。  違う、みんなじゃない。  教室の中ほどに座る堤だけは、小さく笑っていた。  昨日の放課後。堤に促されるまま由宇は数学の問題を解き進め、気がついたときには出された宿題まで終わらせていた。いつもなら指名されても黒板の前に立ちすくむだけなのに、今日はすぐに解答を書き始められたのは堤のおかげだ。由宇は堤に笑い返した。  黒板から数歩離れた所で、数学教師にノートを見られた。由宇が他人のノートを借りて解答を写したと疑われたのかもしれない。痛くない腹をさぐられても何ともない。由宇は平然としていた。  今度こそ席に帰ろうとしたところでふと、再度堤の顔が目に入った。先ほどまでと違い、堤はどこか不機嫌そうな顔をしていた。  机と机の間を通って席に着くまで、「疑われてやんの」「誰のノート写してんだよ」とやいのやいの言われるのに、由宇は「俺のだよ」と悪友たちの頭や肩をモグラ叩きして回った。  由宇が席に座るのとほぼ同時に、ズボンのポケットに入れている携帯電話が震えた。机の下でこっそり見ると、小田桐先輩から連絡が入っていた。 『放課後、空いてる?』  小田桐先輩のメッセージはいつもとてもシンプルだ。絵文字もスタンプもほぼない。  女子とメッセージのやり取りをしていると、学校で話す時に受ける印象とメッセージから受ける印象とが全く違って由宇はしばし面食らう。でも、小田桐先輩の飾り気のない文面は、小田桐先輩の水のようにさらりとしたきれいさと、由宇の中でいつもぴったりと一致した。  小田桐先輩とは、堤に邪魔されたあの放課後以降会っていなかった。誘いをかけてくるということは、今日は英語部の活動がないのだろう。ズボンのポケットには先輩から受け取ったコンドームが入れっぱなしになっていた。由宇はポケットの中でそれをいじりながらしばらく考えた後、短く返事を返した。
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