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「ワゴン車の男に何か弱みでも握られているのか」
「……」
「借金ってとこだな」
「もしかして警察か」
赤眼鏡がトウフを睨んだ。女に声をかけている間は能天気な顔をしていたぶん、凄みがある。トウフの口元が微かに緩んだ。こういうシチュエーション、ゾクゾクするじゃないか。
トウフはポケットからタバコを取り出してみせた。赤眼鏡は首を横に振る。嫁が妊娠したばかりなので、禁煙したという。
「で、あなたは何者ですか」
赤眼鏡はいった。
「探偵だ」
「頭の固い探偵だね。こういう赤い眼鏡は伊達メガネだと決めつけるなんて想像力なさすぎです。……友だち、少ないタイプでしょう」
当り前のように、トウフが買ってきた缶コーヒーを勝手に口づける。
「群れるのは、嫌いなだけだ。……君のその赤眼鏡は商売道具だろう。ちなみに髪型もそう。普段はパイナップル頭なんてしちゃいない」
「パイナップルだ?」
「だからこうやって萎びた大根っ葉が、垂れてきている」
カチカチに固まっているパイナップル部分からはぐれた、一束の髪の毛を顎でしめした。
「人の髪の毛を食い物でくくるな」
ふっと、トウフは笑った。
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