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トウフ探偵とパンダ君
あ、まただ。
赤い眼鏡の男が、目の細い女に声をかけた。
女は驚きの表情を浮かべて、彼の名刺をのぞき込む。少し話がしたいから、といった様子で男は傍らに停まっているワゴン車を指さした。
赤眼鏡の手が彼女の腰にまわると、スイッチが入ったかのように女はそのままワゴン車の方に歩きだす。
するとワゴン車に待機していた別の男が出てきて、バトンタッチする。
ふたたび赤眼鏡は、カフェ前の道に戻って女漁りを繰り返す。
それが午前中ずっとおこなわれていた。
トウフは店を出ると、赤眼鏡が拠点とするベンチの隣りの花壇に腰をおろした。タバコに火をつけ、水色の空を見上げる。
溺れる。
空が海のように楽し気だったから、トウフは頭から突っ込んでしまいそうな気になり、首をすくめた。
その途端、赤眼鏡と目が合った。
「あそこのカフェから俺のこと見てたでしょ」
気づいていたのか。近くで見ると小太りな上、幼さも残る男だが案外頭の切れる男なのかもしれない。
「その眼鏡は伊達だろう」
「まあね」
そういうと赤眼鏡はトウフの隣りに座った。ワゴン車の男が女を連れてどこかに消えたから休憩といったところか。
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