プロローグ

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黒い夜だった。 黒く苦い霧が立ち込めた夜だった。 結露にしたたるカーテンが不気味さを増している。 冬の訪れを待っている。 そのくせ月だけがオレンジ色に爛々と輝いて、気味の悪い夜だった。 カラス達がキャーキャー口々に噂話に花を咲かせている。最近のごみの質だとか、最新式のカラス避けの罠の話とか、他愛のない話しばかりだった。 コンコンコン と軽いノック音のあとに女性の声が続く。 「ご主人様、頼まれていた本をお持ちしました。」 ボンヤリと外を眺めていた青年は面倒そうに声のする方を見るとクラシックなメイド服を着た水色の髪を持つ女性がドアの前で立っていた。 「ああ、ムニンありがとう。机の上にでも置いておいてよ。」 青年が目で促した机は乱雑であった。両端には塔を創ろうとでもしているのか本が高く積んであり、飲みかけの紅茶とティーポット、インク瓶に年代物の万年筆が無造作にさしてあり、書きかけの書類が散乱している。中央の奥には時代遅れの黒電話が主のように鎮座している。 こんなに散らかしていては置く所なんてないがムニンと呼ばれた女性は無表情でどうにか空いているスペースを見つけて本を置く。深緑色の本の表紙は色 褪せタイトルには薔薇の記憶とドイツ語で記入されていた。
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