きっかけはお代わりし放題のコーヒー

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 扇の背中を冷汗が伝う。 「……う、うっ……ええと、3752円、ですね?」 ミノリの顔にもうっすらと汗が流れていた。 正確には思い出せないが財布に入っている現金はそんなものだ。 「俺が数える間待てるか?」 「ダメ! もう無理」ミノリがトイレに走る。 戻って来るまでに財布を開いて数えた。ぴったり3752円。 これが探偵になるという夢に役立つかどうかはともかく、うまく使えば占い師くらいは出来そうだった。 「ふぅ……どうでした?」とことことミノリが戻って来る。 「驚いたよ。当たってる。探偵ねえ……」猫探し人探し、あたりなら行けるんじゃないか? 「応援するよ。頑張って」 がっ、と肩を掴まれた。「応援するって言いましたよね。事務所は立ち上げたんですけど、まだメンバーが一人もいないんです」 「いや、俺はだな」 「体調不良でブラック企業休職中。転職先探す気合なし。バイトで貯めた貯金額200万円。昨日全部、こうやって情報入手済みです。私の事守るって、昔言いましたよね」 「もう終わった話だろそれは」 「いーえ。ちゃんと終わってはいませーん。さあ今日から私の事務所へGOなんですよ」 夢ね……いつ叶うかはともかく。速足で歩いているミノリにはすぐ追いつく。あえて前には出ない。事務所は近くにあるらしいが場所も知らない。 まあ、しばらく付き合ってもいいか。街路樹を吹き抜ける風は冷たい。けれどミノリだけは燃え盛っているように見えた。
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