お気に入りのあの店

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「穂乃花。そろそろ起きなさい。」お母さんの声。 私は時計を見る。現在7時。まだ眠い。 「こら、今日は入社式でしょ。」 式は9時から。8時に高山さん(2代目)が迎えに来る。まだ一時間もあるじゃん。 「貴女は大学生と同じ格好で行くつもりなの?」 お母さんに布団をひっぺがされた。さ、寒い。 「うわぁーん、お父さ~ん。」私は父に救助を求める。 「穂乃花、よしよし。」お父さんは優しく抱っこしてくれて、頭を撫でてくれる。お父さんの胸と手大好き。 私が暫く癒されていると、「ぐぇ!!」とお父さんは一声発して霧に潰された。 「裕ちゃん、私の話を聞いていたの?それにも関わらず、なに抱っこしてるの?」 後ろにニコニコどす黒い笑顔の母。 霧は私には影響がない。潰れるのはお父さんだけだ。 「ご免なさい。」ペコペコ謝る父。 父は偉大なサッカー選手だった。数々の大会に優勝し、日本のW杯5連覇。オリンピック4連覇に大きく貢献し、国民栄誉賞も去年貰った。 お父さんは3番目の姉である葉留ちゃんを溺愛していた。小さいときも私より5つも年上なのに、いつも私を押しのけて「パパ」って甘えていた。 そんな葉留ちゃんも3年前にお嫁に行ってしまった。綾花お姉ちゃんや舞ちゃんがお嫁に行った時、絶対に見せなかったお父さんの涙。葉留ちゃんの時には号泣だったお父さん。 だから私は葉留ちゃんが出ていった時から20年分たっぷりお父さんに甘えた。 その度にお母さんの強烈な霧を受けていたお父さん。娘にヤキモチ焼くなんて…。困ったお母さんだこと。 この霧は、私たちの祖母の呪われた血筋の影響で、綾花お姉ちゃんのみ引き継いでいる。お父さんの血筋で呪いは解けているんだけど、私もこの能力ほしかったなぁ。
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