5人が本棚に入れています
本棚に追加
その日も店内は常連のおっさんと若造と紫煙と喧騒でごった返していた。
俺と辻原朱音もその一角に陣取って、久し振りでもない再会を祝していた。
朱音は高校時代の後輩だ。
もちろんそれは遥か過去の話。今ではこうしてたまに酒を飲む友人だ。背は割と高め。細身でちょっとたれ目。色白でふっくらとした唇と長い手足は高校時代から変わらないが、何といううか年とともに色っぽさが増している。
酒を飲めるようになってから何度目かの時に彼女はふと言った。
「先輩が普段から使っている店に行きたい」
彼女は昔の名残で未だに俺の事を先輩と呼ぶ。
俺にしてみれば、一坏は可愛らしい女子の入り込む店じゃない。
社会人になって金もあるんだし、お洒落な店をわざわざ選んでいるというのに。
「やだ、先輩の普段が見たい」
あんまりいうので、仕方なく一度連れてきた。
そしたら、すっかり気に入ったんだとか。
「気取らない感じが良い。美味しいし」
彼女はそう言って、店をほめた。若い子に褒められて、無口な大将は嬉しそうに頬を染めた。いい年こいた爺のくせに。
常連とも一通り仲良くなっており、今やちょっとしたアイドルだ。
最近では俺が一人で訪れるとがっかりされるようになってしまった。
何という本末転倒。
最初のコメントを投稿しよう!