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常連達の茶々を交えつつ二人で店お勧めの濁り酒をちびちび飲んでいる。陶製の大振りな酒器に白い濁り酒。見た目にも美しいじゃないか。
そこへ常連の松さんがやってきた。
松さんはサラリーマンだ。くたびれたスーツに持ちての擦り切れた革製の鞄。革靴も年季が入っていて、頭は白髪交じりだ。いつもメガネがちょっとずれているところに愛嬌があるとか無いとか。
確か松さんの昇進を、この店の常連で大いに祝った事があったっけ。
いつも陽気な人なんだけど、この日はちょっと沈んでいた。
「松さん、どしたの? 元気ないねぇ」
朱音が話しかける。
「朱音ちゃあん」
大声を上げ、抱き着こうとする松さんを他の常連が叩きのめした。
「てめえの中年臭を朱音ちゃんにつけようとしてんじゃねぇ!!」
近くの建築会社で社長をしている大村さんが怒鳴りつけた。
がっちりとした体つきで角ばった顔。いかにも強面っておっさんだ。
常連集の中でも古参の一人で、中核を担う人でもある。
俺も幾度となく説教されている。お前みたいな浮草野郎が朱音ちゃんを連れ回すなんざ百年早い。この言葉を何度言われた事か。
「大村さん、暴力はダメだよ。楽しく飲みましょ」
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