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「お前、いくつだっけ?」
「年? 三十一だけど」
「ええ? 先輩ってもうそんな年? それじゃあ私、もうすぐ三十になっちゃうじゃん」
朱音は二つ年下だから、確かにそうだ。
俺が十八の時に知り合ったから、もう十年以上過ぎてるんだなぁ。
思い出に浸ろうとしたところへ、松さんの追い打ちがかかる。
「お前は結婚してないどころか、彼女もいないんだよな?」
「改めて言わないでくださいよ」
何の確認だよ、松さん。
心が重くなるだろ。
俺は手に持った猪口の中身を一気に空けた。
朱音がそこにそっと白い酒を注いでくれる。
「うちの娘はな、まだ二十四なんだ」
あれ、娘が高校に入ったって話、こないだ松さんから聞いたんじゃなかったっけ?
俺は我が耳を激しく疑った。
もう八年も過ぎてんの?
なんで?
「結婚したい相手がいるんだと。今度の休みに連れてくるって言うんだ。お父さん会ってねってさ」
「めでてえ話だな」
そう言った大村さんを松さんはキッと睨みつけた。
「目出度いもんか。手塩にかけた娘が、どこの産業廃棄物とも知れぬヘドロ野郎にもっていかれようとしているんだぞ」
酷い言われようもあったものだ。相手の男に同情する。
「相手はいくつなんだ?」
「それがさ……。それが三十なんだと」
店中の視線が刺さるのを感じた。
「六つだぞ。六つも年上なんだ。つまり、うちの娘が小学校入学したての頃、そいつはもう中学に行く準備をしてたんだぞ?」
「まあ、そうだな」
「中学も、高校も、大学だって接点の有り様が無かった奴に、何で惚れるんだよぉ」
知らんがな。
「しかも、その野郎に一番年の近い奴の見本がこれだ」
これ、のところでがっつり俺を指さすのはやめて欲しい。
「そいつは確かに心配になるよな」
大村さん?
他のみんなも何で頷いてんの?
「だろ?」
だろ、じゃねえよ。
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