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朱音さん、この酷いおっさん共に何か言ってやってください。
「先輩は稀有な例だと思いなよ、松さん」
酷くない?
「その驚天動地の外れクジを娘が引いて無いかってのが心配なんだ」
そろそろ泣くよ?
いい加減酔っぱらってるくせに、難しい四字熟語を操ってまで人を貶めなくていいと思う。
「あー、お前の血筋じゃクジ運は期待できねぇなぁ」
宝クジを買うのが好きな癖に当たった試しの無い男、松さん。
「大村さん。相手選びはクジじゃないよ」
「だよな」
朱音を前にした大村さんの、主体性の無さは芸術的だと思う。
「なんか魅力があるんだよ。娘さんにしかわからない魅力が」
「魅力ねぇ。でも、産廃だよ?」
「ほら、ある人にとってはゴミでも、別の人から見たらかけがえのない宝って事、あるでしょう」
「ああ、あるなぁ」
なんで俺を見るんだ松さん。ていうか、他のみんなも。
「そういう事なんだよ、きっと」
そう言って、朱音は猪口を空にする。
俺はそこに濁り酒を注ぎ足してやる。
調度、酒器が空になった。話しの腰を折るのも何なので、大将に無言でそれを振って見せる。大将はちらりと俺を見て、それから小さく頷いた。
「松さんの娘さんならね、きっといい人連れてくるよ」
「そう思うかい、朱音ちゃん」
「うん、思う。だって、松さん見てたら、娘さんを愛してるんだなって分かるもん」
ぼたぼたと涙をこぼし始める松さん。
「そんな娘さんが、悪い人選ぶなんてないと思う。大丈夫だよ」
「そうかぁ」
松さんはそう言って、涙を拭き、コップに注がれたビールをぐびぐびと飲み干す。
「大将、朱音ちゃんに何でも好きなお酒を。支払いは向かいに座っているボンクラで」
「へい」
あんたが払うんじゃないのかよ。
大将もへいとかあっさり言わない。
「娘の彼氏と年が近いからな。嫌がらせだ」
店の中がどっと沸いた。
なんて奴らだよ、まったく。
「先輩、ご馳走様。大将、麦のお湯割りください」
「へい」
朱音は優しいなぁ。麦焼酎のお湯割り三百二十円。松さんは舌打ちとかしないの。
大将、何いそいそと焼酎の準備してんの? 俺の酒は?
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