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がたかった。本当にありがたかったけど、無理だった。無理。絶対無理。レストランなんか行ったら、あたし、嫉妬で狂ってしまいそう。幸せそうなカップル、家族連れ……
「ううん、今日はまっすぐ帰るよ。ありがとう、紗英ちゃん。」
その日の講義は、全くと言っていいほど頭に入らなかった。大好きな映画の授業も全くと言っていいほどに。友達から、大丈夫? と沢山声をかけられた。大丈夫に見えないから大丈夫? と声をかけるんでしょう? 大丈夫そうに見えたら大丈夫? なんて聞かないよね?
何故だかわからないけれど、その日
私は1人になるということがなかった。
必ず誰かが隣にいて、ぎこちない笑顔を向けてくる。どうして1人にしてくれないの。ご飯やら遊びにやら沢山誘われたけれど、片っ端から断った。そんな気分にはなれなかった。
「ごめんね、ありがとう!」
それでも、やっぱり
笑顔を見せなきゃという使命感があたしの中にはあった。笑顔を見せなきゃ。みんなに心配されているんだ、心配かけちゃダメだ、圭ちゃんのためにも。
完全に1人になれたのは学校が終わってからだった。
日が完全に落ちた空の元、帰り道を
1人でトボトボと歩く。
すれ違うカップルを見る度に、
行くあてのない左手が泣いた。
圭ちゃんと歩いた道も、もう1人で歩くしかない。
ポタリ、ポタリ、
涙が頬を伝う。
笑わなきゃという使命感、
不自然じゃないかな? という緊張
みんなに心配をかけたくないという思い。
張っていた糸がぷつりと切れた。
涙が止まらなくなる。
「圭ちゃん、会いたいよ」
届くはずのない気持ちを、小さく呟いた。
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