アウインの行方 1

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アウインの行方 1

 ナージュは焦っていた。  まさか、人生で一番大切な日を前にして、何よりも大切なものを無くしてしまうなんて。 「どうしよう……どうしよう……」  温かな日差しが燦燦と差し込む工房の中で、ナージュは部屋のあちらこちらを行ったり来たりしてはあらゆる棚という棚、引き出しという引き出しを開けて呆然としていた。 「……無い……。テンゲル様から頂いた、大切な指輪が。……無い!」  心臓がどきどきとうるさいほど鳴っている。ときめきでもなんでもない気持ちで、ここまで心臓が痛くなるのがこんなにも不快だなんて思いもしなかった。  焦りで頭がこんがらがってしまう。ナージュは息を乱しながら机に両手をついて項垂れた。ふと見下ろした視線の先にある左手の薬指には何の存在も無い。テンゲルの瞳と同じ色をした藍宝石(アウイン)の指輪はそこに無かった。  ――ああ、こんなことならずっと着けたままにしておけば良かった……。  テンゲルの新しい甲冑作りのため、傷がつかないようにと宝物箱にしまっておいた婚約指輪がいつの間にか消えてしまっていたのに気づいたのは今朝のこと。記憶を辿っていくと、昨夜寝る前にこっそりと出してきて指につけ、その煌きにうっとりとしまま寝てしまい、朝目覚めて顔を洗った時に流しで外して、少し棚の上に置いたような気もする。  だがその後すぐに用事があり出かけてしまって……そこから先の記憶が曖昧だった。  ナージュは青ざめた顔で首を振った。胸から喉にかけて熱いものがこみ上げてくるが、ぐっと我慢して口を引き結ぶ。  ――私の馬鹿馬鹿! テンゲル様に何てお伝えしたら良いの……?  泣きそうになるのを何とか堪えながら、ナージュは激しい自己嫌悪に包まれていた。
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