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アイネルは決して悪い人間ではない。素晴らしい鍛冶師の腕と他の追随を許さない見事な武器や武具を生み出す技術には、尊敬の気持ちしかない。だが、どうしても気になることがあった。
ぱたぱたと扉に近づく人の気配があり、すぐに中から背の高い男が顔を出してくる。
「あら~! フィードちゃん、お久しぶり! ささ、中へどうぞ」
どうしても、この女性のようなしゃべり方と仕草が苦手だった。フィードは大きく深呼吸して店の中へと足を踏み入れる。これも一人の人間の個性なのだと受け入れて、フィードは口角を上げた。
「テンゲル将軍から言われ、新しい武器の進捗状況を確かめに来ました」
「はいはい、いくつかは仕上がっているわ! 見ていく?」
「お願いします」
フィードがそう頭を下げると、アイネルは奥の作業場から長剣(ブロードソード)を持ってきた。それを受け取り出来を確かめていたフィードに、アイネルが突然声をかけてくる。
「ねえ、ナージュの様子、おかしかったわよね」
神妙な面持ちで呟くように言葉を零したアイネルに、フィードもまた頷いた。
「はい。先程すれ違ったのですが、何があったんでしょうか。気になりますね」
「心ここにあらず、って感じだったから色々聞いてみたけど何があったのかは分からずじまいよ」
「……そうですか」
「あなた、後でテンゲル将軍にちゃんと話しておいたほうがいいわよ。何かきな臭いのよね」
フィードは深く頷いた。ナージュの異変についてテンゲルがどう反応するか。フィードは少し不安になっていた。
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